R・S・トライツ『宇宙をかきみだす―思春期文学を読みとく』吉田純子監訳、人文書院、2007年4月


ロバータ・シーリンガー・トライツ氏が、ポスト構造主義で思春期文学・ヤングアダルト文学を読みといています。思春期文学の中学校・親・教会などさまざまな「権威」があって、幾重にも若者を取り囲んでいること。「権威」は、まずヤングアダルトを未熟な者としてある種の型にはめ、その後、成熟した自分たち大人の側へ招き入れるというパターンをとっていること。「成長」はイデオロギーであること。こうした「権威」が権威となるうえで、言説や言葉がたいへん重要であること、など、たくさんの発見がありました。第5章の写真術を使って若者がパワーを手に入れることについての分析は、読んでいて心があたたかくなるような、ぐっとくる論考でした。

 

 

 

第1章   ポストモダン期の思春期文学 

第2章   思春期文学にみる制度的言説

第3章   思春期文学にみる権威の逆説 (担当)

第4章   思春期小説にみるセックスと権力

第5章   思春期文学にみる死と物語の結末

第6章     結論 思春期文学のポスト構造主義的教育性 (担当)

 

チャールズ・フレイ&ジョン・グリフィス『子どもの本を読みなおす‐世界の名作ベストセレクト28』鈴木宏枝訳、原書房、2006年10月。

 

 西欧文化の中で脈々と読みつがれている古典的児童文学作品の魅力と奥深さをさぐり、作品と作家の光と影にせまります。「こんな読み方ができるのか」と深くうなずけるおもしろさがあり、研究者の方にも一般の子どもの本がお好きな方にも、それぞれに発見があると思います。お好きな作品の章からどうぞ。

『ペロー童話』『美女と野獣』『マザーグースのメロディ』『グリム童話』『アンデルセン童話集』『もじゃもじゃペーター』『太陽の東 月の西』『ノンセンスの詩/笑いの歌』『クリスマス・キャロル』『黄金の川の王さま』『かるいお姫さま』『旅のマント』『ピノッキオの冒険』『ハイジ』『不思議の国のアリス』『若草物語』『トム・ソーヤーの冒険』『リーマスじいやの物語』『宝島』『イギリス昔話集』『偉大なオズの魔法使い』『たのしい川べ』『』ピーター・パン』『ジャングル・ブック』『ピーターラビットのおはなし』&『りすのナトキンのおはなし』『大草原の小さな家』『荒野の呼び声』『シャーロットのおくりもの』の28作品が取り上げられています(年代順)。


ピーター・ホリンデイル『子どもと大人が出会う場所-本のなかの「子ども性」を探る』猪熊葉子監訳、柏書房 2002年9月。

 


児童文学とは何かを明らかに‐子どもの本の「子ども性」のしるし(猪熊葉子)

第1章 子どもの文学の独自性 (担当)
女性文学と子どもの文学の比較/子ども時代をどう考えるか/フィクションのなかで構築される子ども時代/子どもの文学の独自性/1章のまとめ

第2章 子どもの文学とは何かその定義
ピーター・ハントによる定義とその問題点/子どもの文学を位置づける―作家たちの言い分/子どもの文学の定義リスト/定義6の有効性―「子どもの文学」と「人の子どもの文学」の違い/筆者が提案する「子どもの文学」の定義/筆者の定義の長所と補足/補足(1)子ども時代はいつ終わるのか?/補足(2)子ども時代は大人になっても生き延びるか?/補足(3)子どもの本を読む大人は逃避主義者か?/「子どもの文学」と「子どもの読み方」の三つの特徴―「子ども」だけにかかわる問題か?/2章のまとめ

第3章 批評用語「子ども性」の提唱
英語に欠けている概念の発掘―「子ども性」/「子ども性」という語の意味/子どもの子ども性/大人の子ども性/テクストの子ども性/批評用語としての「子ども性」/子どものありようを表現する語彙の貧困さ/「子ども」の概念にひそむ問題点―「子どもらしい」という語を手がかりに/作家がテクストにもち込む子ども性―アーサー.ランサムの場合/「子どもの子ども性」と「テクストの子ども性」の断絶/子どもにかかわる仕事に欠かせないこと―子ども性の再想像/青春期の文学/3章のまとめ

第4章 記憶と語り1自伝としての子どもの本
直線的な語り/記憶と子ども時代/記憶が紡ぐ物語/自伝としての子どもの本/4章のまとめ

第5章「子ども性」のしるし―作品分析の方法など
「子ども性」の多様さ/「子ども性」の概念を明確化するためのさまざまな問い/「テクスト」と「読むという行為」―子どもの文学は一般文学から分かたれるか否か/「テクストの子ども性」と「読者の子ども性」/テクストのなかの「子ども性」を探る/5章のまとめ

第6章テクストとその子ども性
子ども不在の子ども性/「子どもの文学」と「子ども時代の文学」/子ども性の再想像/6章のまとめ

第7章「若者だけが、そのような瞬間をもてる」
青春期とその文学/成長の二重性―「子どもでいること」と「大人になっていくこと」/「青春期の文学」の代表的な二つの主題/7章のまとめ

 
ホリンデイルが提唱する批評用語「子ども性」。子どもの文学のさらなる可能性を探る。 (共訳)